僕がグラント・グリーンを好きになったきっかけ
僕の世代は、まだインターネットが普及していない時代でした。
今みたいにスマホを開けば情報が出てくるわけではなく、音楽の情報源はほとんど雑誌しかありませんでした。
本当に、唯一の情報源と言ってもいいくらいだったと思います。
当時は「3大ギタリスト」なんて言葉がよく使われていて、パット・メセニー、ジョン・スコフィールド、マイク・スターンあたりが、その代表として語られていました。
いかにも日本人が好きそうな“3大なんちゃら”です。
『Jazz Life』などの音楽雑誌を読むと、「ジャズは進化し続ける音楽だ」「最新のサウンドこそ重要だ」みたいな空気が強くありました。
友達との会話でも、「今これが一番新しい」「これが最先端」みたいな話ばかりでした。
千葉のセッションへ行っても、やっぱりそんな雰囲気でした。
新しい音楽を聴くことが“かっこいい”時代で、古いジャズを聴くのは「現代の音楽を理解するための資料」みたいな感覚だった気がします。
極端に言えば、
「古い音楽は研究するものであって、そこで止まるものではない」
そんな空気がありました。
今思えば、かなりその価値観に影響を受けていたと思います。
だから僕も、パット・メセニーやジョン・スコフィールドばかり聴いていました。
今でもジョン・スコフィールドは大好きですし、パット・メセニーなんて当時は本当にたくさんCDを持っていました。
今は1枚も持っていませんが。
そんな中で、「新しい音楽を演奏するには、昔の音楽も知らなければいけない」と言われるようになります。
そして日本人のジャズギタリストたちは、みんな口を揃えてウェス・モンゴメリーの名前を出していました。
だから僕は、
「ウェス・モンゴメリーがナンバーワンのジャズギタリストなんだろうな」
と、ずっと思っていました。
僕はギタリストになる前、かなり過酷なサラリーマン生活をしていました。
大変な仕事もたくさんやりましたし、毎日かなり疲れていました。
でも、給料の多くは酒に消えていました。
今は一切口にしませんが、当時は仕事終わりにお酒を飲むことだけが楽しみみたいな時期もありました。
そして、残ったお金でCDを買っていました。
そんな時に買ったのが、ケニー・バレルの『Hand Crafted』でした。

確か1曲目は「You And The Night And The Music」、最終曲が「It Could Happen To You」だったと思います。
他にも素晴らしい曲がたくさん入っていました。
ただ、その頃の僕はジョージ・ベンソンに衝撃を受けていた時期でした。
雑誌でジョン・スコフィールドがジョージ・ベンソンを絶賛していて、聴いてみたら本当にぶっ飛びました。
「こんなうまい人いるのか」
と思いました。
高校生の頃、僕はヘヴィメタル系の速弾きも好きだったので、とにかく“速く弾ける”ことに強く反応していました。
しかもジョージ・ベンソンは、ロックではなくジャズでそれをやっている。
それが本当に凄く感じました。
だから、初めてケニー・バレルを聴いた時は、
「なんてヘタなんだろう」
とすら思ってしまいました。
グラント・グリーンなんて、もっとヘタに聴こえていました。
でも、そのケニー・バレルのCDが、僕の価値観を全部変えてしまいました。
会社から帰ってきて、次の日が休みでした。
かなりお酒を飲んでいましたし、疲れ切っていました。
当時の僕にとって、3000円のCDは安い買い物ではありませんでした。
「もったいないから聴きながら寝よう」と思って、タイマーを1時間にセットしました。
ところが、リピート再生を間違って押していたんです。
次の日、二日酔いでぼーっと目を開けた時、部屋の中でずっとその音楽が流れていました。
そして、その瞬間に思いました。
「なんだこれ……めちゃくちゃ良い音楽じゃないか」
と。
全部が歌って聴こえました。
ギターだけではありません。
ベースも、ドラムも、空気も、全部が歌っているように感じました。
あれが、自分にとって本当の意味での“ジャズの始まり”だった気がします。
そこから、ケニー・バレルの音楽にどんどん心を奪われていきました。
そして、ふと思いました。
「ひょっとして、グラント・グリーンが評価されている理由って、この“歌心”なんじゃないか?」
そう思って聴いたのが、グラント・グリーンの『Feelin’ The Spirit』でした。

もう衝撃でした。
もともと黒人音楽が好きだったこともあり、
「なんだこのフィーリングは……」
と、本当に驚きました。
それまで僕は、“うまさ”を、速さやテクニック、フレーズの複雑さで判断していました。
でも、ジャズの本当の魅力はそこだけではありませんでした。
実は僕自身、フュージョンバンドをやっていた頃から、ソロの「構成」や「歌わせ方」の大切さは理解していました。
アドリブではなく、書き譜のソロを作ったりしていたからです。
だから、
・展開の面白さ
・メロディーのまとまり
・歌っている感じ
みたいなものの重要性は、実はわかっていました。
ただ、それを“リアルタイムの即興”でやるなんて、本当に可能なのか疑っていました。
「そんなことできるわけない」
と、どこかで思っていたんです。
でも、ジョージ・ベンソンのような人は実際にやっています。
そして、ケニー・バレルやグラント・グリーンは、また違う形で“歌”を表現していました。
その魅力に、完全に取り憑かれてしまいました。
それから僕は、岡安芳明さんに弟子入りすることになります。
もちろん、その前にも迷った時期や、いろんな出来事がたくさんありました。
でも、その話はまたいつか、別の機会に書いてみたいと思います。
